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最高裁判所第一小法廷 昭和48年(オ)264号 判決 1973年11月29日

主文

理由

上告人の上告理由について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係によれば、上告人主張の通謀虚偽表示の事実は認めがたいとする原審の認定判断は肯認するに足り、原審の適法に確定した事実関係(ただし、後述の本件建物に対する上告人の所有権取得日時の点を除く。)のもとにおいては、被上告人の第一審被告に対する本件土地賃貸借契約の解除は有効であつて、右解除後競落により本件建物の所有権を取得した上告人は権原なくして本件土地を占有するものであるとする原審の判断は正当であり、その過程に所論の違法はなく、所論指摘の判例は本件に適切でない。また、賃借人の賃料不払による土地賃貸借契約の解除については、借地上の建物の抵当権者は民法五四五条の第三者に該当しないと解すべきである。所論はいずれも理由がない。

つぎに職権により判断をする。原判決は「上告人が昭和四六年五月一七日本件建物を競落し、これに対する許可の決定が確定して同月二五日その所有権を取得したことは当事者間に争いがない」旨を判示するが、原判決の摘示するところによれば、原審において被上告人は「本件建物は競売法に基づく競売手続の結果上告人がこれを競落して、昭和四六年五月二五日競落許可決定の確定により、その所有権を取得した」旨を主張したのに対し、上告人は「被上告人主張の事実中上告人が本件建物を競落して所有権を取得したことは認める」旨の陳述をしたにとどまるから、上告人が本件建物の所有権を取得して本件土地の不法占拠を開始した日時については、争いがないということはできないのである。したがつて、原審の前記判示は民訴法二五七条の解釈、適用を誤つたものといわなければならない。

ところで、競売法に基づく不動産の競売手続においては、競落不動産の所有権は競落人が競落代金を完納したときに競落人に移転すると解すべきである(最高裁昭和三七年(オ)第一一二号同年八月二八日第三小法廷判決・民集一六巻八号一七九九頁参照)。本件において、上告人が昭和四六年六月八日本件建物の競落代金を完納したことは弁論の全趣旨により明らかであるから、上告人は同日本件建物の所有権を取得し、したがつて同日以降本件土地を不法に占有して被上告人に賃料相当額の損害を与えているものというべきである。

被上告人は原審において上告人に対し、上告人が昭和四六年五月二五日以降本件土地を不法に占有するものとして同日以降の賃料相当の損害金の支払を請求したところ、原審はこれを認容したのであるから、原判決の前記違法はその結論に影響を及ぼしたことが明らかである。したがつて、原判決中被上告人の上告人に対する昭和四六年五月二五日から同年六月七日まで一ケ月金六〇〇〇円の割合による金員の支払の請求を認容した部分は失当であるから、右部分については、原判決は破棄を、第一審判決は取消を免れず、右部分の請求は棄却すべきものである。しかし、その余の部分の原判決は正当であるから、この部分に関する上告は棄却

(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)

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